なれる!SE 間違いだらけの?IT用語辞典(中二版) 第19回

中二単語の法則に則っているようなIT用語

2013年06月13日 18時00分更新




 システムエンジニアの過酷な実態をコミカルに描く電撃文庫の異色作『なれる!SE』。本企画は、その主人公&ヒロインである桜坂工兵と室見立華による“中二っぽい”IT用語の解説コーナーだ。


このコーナーはIT用語の中でも特に中二っぽい単語(※)を取り上げ、その意味と語感のギャップをゆるく楽しんでいくものです。


優秀な中二病の少年少女IT業界にスカウトすべく始まったこの企画。今回もガンガン攻めていくわよ!


いやぁ……前回の話を受けてちょっと自分でも色々研究してみまして。中二的な単語とはどういうものか考えてみたんですよ。


ほう。


まず画数の多い漢字ですね。『螺旋』とか『煉獄』とか、こういうゴチャっとした文字は中二っぽい感じがします。


なるほど。


次にマグナ・カルタとかハイドロプレーニングとか、よく分からない横文字も中二っぽいですね。ここで重要なのは元の意味が『よく分からない』ってところです。色々人口に膾炙して一般的になっちゃった横文字はダメですね。たとえば今ロボットアニメで”コスモロボ”なんてネーミング出したら全没くらうでしょうし。


ふむふむ。


そして最後の一つ! いやぁこれにたどり着いたのは正直凄いと思いますけどね。うふふ、世界の真理を見つけちゃった気分ですよ。うふふふ。


なんかイラっとくるけど、仕事だから一応訊くわね。何?


ファンタジー用語と現代用語を組み合わせるんですよ。科学的な単語とか技術・軍事系のワードを。するとそこにはなんとも言えない中二感が生まれます。


はぁ、たとえば?


『時空教会』。


うわ、中二くさ。


でしょう? あと『機甲僧侶』とか『妖精反応炉』とか『物理槍兵』とか、なんだかよく分からないけど格好よくありませんか? この理論を応用すればいくらでもクールな中二用語が量産できます。やっべー特許取っちゃおうかなぁ、僕。


多分おんなじようなこと考えてる人いっぱいいると思うけどね……。まぁ何事につけ体系化して分析するのはいいことよね、エンジニア的には。闇雲に感覚論だけで押し通してもなかなかうまくいかないもの。


ですよね。なので今回からきっちり分析してお題の単語を選んでいきたいと思います。まずは本理論に基づき、技術とファンタジーの融合っぽい用語をチョイスしてみました!


え、フリだったの?


(※)思春期の男の子女の子がぐっとくるようなカッコイイフレーズ、名前。ポーズをつけて叫んだりするとなお可。ただし大人になってから同じ単語に接するとなぜか赤面してしまう不思議。

今回のお題:
サーキットレベルゲートウェイ


魔導回路(サーキット)解放! ミスティックセッション確立!
サーキットレベルゲートウェイ起動!!


!? 光の柱が!?


うぉおおおお!(と叫びながら懐中電灯を振り回す)


ちょ、まぶしい。顔に光があたる。まぶしいってば。


イェエエエエイ! ヒャッハァアアア!


えい。(プスッ)


ギャァアア! 足がぁああああ!


……ほんっとスイッチ入るとテンションおかしくなるわよね、あんた。……で? 『魔導』がファンタジーで『回路(サーキット)』が技術用語。二つあわせるから中二っぽいってこと?


はい、これ、いいところ突いてると思うんですよね。魔法というオカルティックな概念を科学で体系化した感じで。なんなら魔導を英語に変えてグリモアルサーキットとかでもいいですよ?


表記は別にどうでもいいけど……お題はサーキットレベルゲートウェイなんだからそっちに凝りなさいよ、もう少し。


もちろんそっちの方もきちんと設定してあります。魔導力の溢れた並行世界から力を呼び込むための回路、それを終端するための装置がサーキットレベルゲートウェイです。術者は自らの体内にゲートを作ることで並行世界に接続、膨大な魔力を行使することができるんです。


そ、そうなんだ。


ちなみにゲートウェイには七色四方位の基本要素が存在し全部で28種の魔導属性が形づくられます。通常魔法使いは一種類の魔導属性しか持てませんが、希に複数の属性を持つ者もおり、こうした人々をマルチマトリクスと呼びます。


………。(えーと)


なお正確には属性が二つならデュアルマトリクス、三属性ならトリプルマトリクスと呼ばれます。三属性持ちははっきり言って神ですね。同時に異界と三チャネルを繋いで魔力供給できるわけですから。


あ、スタッフさん、緞帳(どんちょう)おろしてください。……ええ、いいです。この話、長くなりそうなんで適当に切ってもらって。はい。


ですが歴史上、たった四人だけ四属性を持つ魔法使いがいたんです。彼らクアッドマトリクスの所有者は『始祖四柱』と呼ばれそれぞれ現在に連なる四つの魔術理論を築き上げました。一の系統『葬送工房(フューネラルファクトリー)』、二の系統『吸血法廷(レッドコート)』、そして口に出すのも恐ろしい三の系統ーー。

(がらがらと閉まっていく緞帳。隠される桜坂、場転)

回答編


はい、回答編いくわよ。
……って、どうしたのよ桜坂、机につっぷしちゃって。


ううう……ひどいですよ室見さん、せっかくノリノリで解説してたのに。あそこからがいいところだったんですよ。


だって長いんだもの。設定厨(*1)だっけ? まさにアレね。ストーリーに絡まない設定をどれだけ作り込んでもただの自己満だってうちのお婆ちゃんが言ってたわ。


そのお婆ちゃん何者ですか……。まぁ……脱線しすぎたのは事実なんで、すみません。回答の方お願いします。


サーキットレベルゲートウェイはファイアウォールの一種ね。クライアントとゲートウェイ間で専用のTCP/UDP通信路(サーキット)を確立し、その中で通してよいアプリを定義する。まぁプロキシの一形態でもあるわね。


プロキシ? WebプロキシとかFTPプロキシとか、あれのことですか?


それはアプリケーションプロキシね。HTTPとかFTPとかプロトコルを都度指定して通信させるわけだから、ネットワーク管理者はそれぞれのアプリごとにゲートウェイを準備する必要がある。反対にサーキットレベルゲートウェイは一台設置すれば複数のアプリに対応できる。


なんででしょう。


単一のTCP/UDP通信でアプリをくるんじゃうからよ。コンテナ的な動作……と言えば分かりやすいかしら。TCPならSOCKS(*2)、UDPならUDPRelay(*3)という箱で上位のアプリケーションを包み込んでしまう。HTTPでもtelnetでもFTPでもなんでもございって感じでね。


はぁ……なんかVPNっぽいですね。仮想の通信路を作ってそこにパケットを流すところとか。


近いわね。ただVPNはあくまで複数サイトを安全に繋ぐための仕組みであって、中身のアプリを制御するものじゃない。目的が違うから別の概念になってると理解しておくべきね。


なるほど……勉強になります。(と言いつつもやや寂しげな横顔)


あー、ちょっと尺が余ったわね。さっきの中二設定、少しなら続けていいわよ? ずっとその顔されるのも嫌だし。


本当ですか!


ちょっとよ、ちょっとだからね。


はい! じゃあ手短に!(と言って大学ノートを数十冊取り出す)


………。(言うんじゃなかった)


(*1) 作品のストーリーではなく設定に重点を置いてしまう人。設定資料集は大学ノート三冊分、肝心の本編は一ページで挫折とかよくある話
(*2) セキュリティプロトコルの一つ。SOCKetSの略称
(*3) マルチプロキシサーバDeleGateの一機能


【解説】

サーキットレベルゲートウェイ
ファイアウォールの一種。クライアントとゲートウェイ間で仮想の回路(サーキット)を確立し、その中で通すアプリケーションを制限する。TCPアプリ用のSOCKSが有名。

キャラクター紹介

桜坂工兵

(株)スルガシステムの新人SE。実はゲームオタ。ロマサガは人生。好きなレトロゲーはゲイモス。


室見立華

工兵のOJTトレーナー。見た目女子中学生、年齢不詳。主武装はドライバー。言動の端々に某巨大掲示板の影響あり。


システムエンジニアの過酷な毎日をコミカルに描く物語

なれる!SE―2週間でわかる?SE入門 (電撃文庫)
なれる!SE (9) ラクして儲かる?サービス開発 (電撃文庫)

 平凡な社会人一年生、桜坂工兵は厳しい就職活動を経て、とあるシステム開発会社に就職した。そんな彼の教育係についた室見立華は、どう見ても十代にしか見えない少女。しかしそんな見た目に反し室見は確かな実力を持つワーカホリック娘で、多忙かつまったく優しくない彼女のもと、工兵は時に厳しく指導され、時に放置プレイされながら奮闘することになる。 。

 入社早々、実際の顧客相手の案件担当を振られるのを皮切りに、社内の運用部署との調整や大規模案件の提案、はてはベンダー数社を束ねるプロジェクトマネージャーまで、およそ新卒一年目にはハードルの高すぎる業務を無茶振りされるが!?

 システムエンジニアの過酷な実態をコミカルに描く物語、それが『なれる!SE』です。 。

 最新9巻が発売中! 今回のミッションは新サービス開発!