なれる!SE 間違いだらけの?IT用語辞典(中二版) 第27回

原理を考えると「あれっ」と思う中二病用語ってあるよね、と感じるIT用語

2013年08月22日 18時00分更新




 システムエンジニアの過酷な実態をコミカルに描く電撃文庫の異色作『なれる!SE』。本企画は、その主人公&ヒロインである桜坂工兵と室見立華による“中二っぽい”IT用語の解説コーナーだ。


このコーナーはIT用語の中でも特に中二っぽい単語(※)を取り上げ、その意味と語感のギャップをゆるく楽しんでいくものです。


優秀な中二病の少年少女IT業界にスカウトすべく始まったこの企画。今回もガンガン攻めていくわよ!


今日はあえて無粋なツッコミで始めてみようと思います。


ほう?


ほら漫画とかでよくあるじゃないですか。ビジュアル的には格好いいけど原理を考え始めると『???』となる兵器。


たとえば?


地震兵器。


ああ、地震を起こせるほど凄い爆弾作れるなら、そのまま落とした方がいいんじゃない? ってやつね。


ですです。あとブラックホール爆弾とか、あれ一個作るのに地球規模の質量が必要らしいですよ。だったらその質量を直接ぶつければいいとか何かの本に書いてありました。


人工台風、隕石爆弾、オーロラ兵器……どれも事前の準備が大変すぎて本末転倒になっちゃってる代物よね。まぁこのへん突き詰めていくと既存の技術以外何も出せなくなるんだろうけど。


フィクションだから大目に見るべきだと?


何を重視してるかじゃない? 科学考証か軍事的整合性か、あるいはビジュアル的なインパクトか。私なら、そのどれかが伝わればとりあえず楽しんで見てられるけどね。


なるほど……それを聞いて安心しました。実は今日お持ちしたキーワードはビジュアル優先でして。出した瞬間、ケチョンケチョンにけなされるんじゃないかと心配してたんです。


へぇ? 何もってきたの。


誘導レーザーっぽいやつです。


そんな非科学的な兵器、馬鹿じゃないの。死ねば?


!!!??


(※)思春期の男の子女の子がぐっとくるようなカッコイイフレーズ、名前。ポーズをつけて叫んだりするとなお可。ただし大人になってから同じ単語に接するとなぜか赤面してしまう不思議。

今回のお題:
マルチホーミング


ターゲットロックオン! リアクターコネクト! いっけぇ、
……マルチホーミング!

(天駆けるレーザーの軌跡、逃げる敵を追尾し次々と撃墜していく。希に躱されるがすぐまた軌道を変えて追撃にうつる)


いやっふぅ! やっぱホーミングレーザーは気持ちいいぜ! よし、次弾装填、ターゲットインサイト!


……だからぁ。



(身構えつつ)早速無粋なツッコミの気配。


なんで撃ってから躱されるくらいレーザーが遅いのよ? おかしいでしょ、光の速さなんだから。


ぐっ! ……ピンポイントで痛いところを。


あと光線をねじまげようと思ったら重力レンズとか作るんだろうけど、それ事前に準備しておくわけ? 戦場のあちこちに。それこそその重力場で敵を叩き落とした方が早くない?


だ、だからビジュアル優先なんですよ。レーザーがカクカク曲がって敵を追撃していくのって格好いいじゃないですか。室見さんも見映えさえよければフィクションとして楽しめるって言ってましたよね?


言ったけど、曲がるレーザーは邪道よ。考えてもみなさい。そんなものが実現されたら艦隊戦とかすごく大味になるわよ。陣形も照準も何もなく、とりあえずぶっぱなせばあとは勝手に攻撃してくれるんだもの。ロマンのかけらもないわ。


ロ、ロマンですか……?(また妙なこだわりが……)


いい? 艦隊射撃は砲塔回転させて仰角あわせ照準、『撃てー!』ってのが美学なのよ。その絵を壊すような技術はなんであろうと受け入れられない。断じて許し難いわ。


あ、あの……室見さん?


(ギラついた目になりながら)方位40、距離200、第一、第二主砲射撃始め! ……よし、初弾爽叉! 続けて斉射三連! ッテー! 命中! 命中! めいちゅぅうううー!


痛い! 痛い、物投げつけないでください! や、やっぱこの人に軍事系のネタふっちゃダメだ。スタッフさん、回答編お願いします!

回答編


あれ? いつの間にコーナー切り替わってたの? お題の説明は……?


先程無事に終わったところです。いやだなぁ室見さん、みんな拍手喝采の見事なオチだったじゃないですか。


そう……だっけ? おかしいわね、どうも記憶が曖昧で。


ま、ま、細かいことはおいといて。説明お願いしますよ。マルチホーミング、これは一体どういう意味でしょう?


……なんか納得いかないけど。ま、いいか。(こほんと咳払い)マルチホームというのは一つの組織が二つ以上のインターネット接続を持つことね。もう少し具体的に言うと、複数のISP接続を準備して冗長や負荷分散を行うこと。


複数のISP接続?


たとえばユーザーのデータセンターをJT&W(*1)ネットエフェクト(*2)、二社のインフラに繋ぎこむ。そうしたらたとえJT&Wのネットワークが全滅してもネットエフェクトでサービス継続できるでしょ? そういうキャリア規模の障害まで加味した冗長化がマルチホームなのよ。


なるほど……って、あれ? でもその場合通信の切り替えはどうするんですか。JT&W側の障害を他社がよろしく検知して通信引き継いだりしませんよね?


マルチホームの場合、通信ポリシーはユーザが決定する。だから全断でなくともJT&W経由の通信がおかしいと思ったら、ユーザー側で接続を切り替えるのよ。キャリア側は基本的に来たトラフィックを運ぶだけ。


そんなややこしい制御……どうやるんですか。


BGP、前回も出てきたでしょ?


ああ……自律システム(AS)間の通信制御。この場合はユーザーが独立したASになるってことですか。


そう、だから基本的にマルチホームは誰でもやれることじゃない。一定の規模と資金力があるところだけできることね。大学とか企業とか。


個人ではできないんでしょうか?


簡易マルチホームってのはあるわよ。DNSの書き換えを使ってブロードバンド回線などを冗長化する技術。これなら機械(*3)一個入れるだけでフレッツと電力系光ファイバを束ねられたりする。ただそれでも機器代で100万以上かかるけどね。


100万! 宝くじでも当てないと無理ですね……。


まぁ普通は自宅のブロードバンド回線なんて年に一~二回程度の障害しか起こらないしね。それを避けるために100万払う人はまずいないわよ。クリティカルなサーバを家に置きたいならそれこそベストエフォート回線なんか使うなって話だし。


なるほど……ちょっと残念ですね。『俺ん家のインターネット回線、マルチホームなんだぜぇ?』とか通っぽくて、自慢したい感じなんですが。


いっそ手動でやっちゃったら? 二本ブロードバンド回線引き込んで、障害が起きたら首振りルータでルーティングを向け変える。これなら単純に回線費用が二つかかるだけだしね。


ほうほう、……えーと、首振りルータ?


回線受けルータ(NAT装置)と別にプロバイダ選択用のルータを一個準備しておくの。で、障害発生時はデフォルト経路をバックアップ回線のNAT装置に変更する。いわゆる交通整理役ね。ほら、こうやるの。……ルータにログインして。……スタティックルート変更! 目標、AS5××1上の敵サーバ。ARPクリア実施、初段ping撃て-!


え? え?


(両目を血走らせながら)続けて"-t"オプションで10000連発開始、サイズを1500に変更、フラッドping……サルボー! 命中! いいわよ、どんどん撃ちなさい! 二番艦(ThinkPad)も射撃開始。ははははは、敵がゴミのようだわ!


またスイッチ入っちゃた-!? ほ、本当予想つかないなこの人。てかフラッドpingって……DoS攻撃(*4)じゃないですか! 何やってるんですか。ちょっと、ちょっと藤崎さん、室見さんを止めて下さい。藤崎さーん!


(*1) 本編に登場する巨大通信会社。国内最大規模を誇る
(*2) 本編に登場する通信会社。所謂NCC(新電電)の一角
(*3) Radware社のLinkproofなど
(*4) サービス拒否(Denial of Service)攻撃。相手機器のリソースを消耗させることでサービスの提供を困難にする行為


【解説】

マルチホーミング
一つの組織が二つ以上のインターネット接続を持つこと。原則としてユーザーは独立したASとなり異なる複数の上位プロバイダとBGPピアを確立する。運用・管理にかなりの技術・コストが必要なため、特殊な簡易マルチホーム装置で代替することもある。

キャラクター紹介

桜坂工兵

(株)スルガシステムの新人SE。実はゲームオタ。ロマサガは人生。好きなレトロゲーはゲイモス。


室見立華

工兵のOJTトレーナー。見た目女子中学生、年齢不詳。主武装はドライバー。言動の端々に某巨大掲示板の影響あり。


システムエンジニアの過酷な毎日をコミカルに描く物語

なれる!SE―2週間でわかる?SE入門 (電撃文庫)
なれる!SE (9) ラクして儲かる?サービス開発 (電撃文庫)

 平凡な社会人一年生、桜坂工兵は厳しい就職活動を経て、とあるシステム開発会社に就職した。そんな彼の教育係についた室見立華は、どう見ても十代にしか見えない少女。しかしそんな見た目に反し室見は確かな実力を持つワーカホリック娘で、多忙かつまったく優しくない彼女のもと、工兵は時に厳しく指導され、時に放置プレイされながら奮闘することになる。 。

 入社早々、実際の顧客相手の案件担当を振られるのを皮切りに、社内の運用部署との調整や大規模案件の提案、はてはベンダー数社を束ねるプロジェクトマネージャーまで、およそ新卒一年目にはハードルの高すぎる業務を無茶振りされるが!?

 システムエンジニアの過酷な実態をコミカルに描く物語、それが『なれる!SE』です。 。

 最新9巻が発売中! 今回のミッションは新サービス開発!