なれる!SE 間違いだらけの?IT用語辞典(中二版) 第42回

サッカー漫画で何を思い浮かべるかで世代が分かるIT用語

2014年01月16日 18時00分更新




 システムエンジニアの過酷な実態をコミカルに描く電撃文庫の異色作『なれる!SE』。本企画は、その主人公&ヒロインである桜坂工兵と室見立華による“中二っぽい”IT用語の解説コーナーだ。


このコーナーはIT用語の中でも特に中二っぽい単語(※)を取り上げ、その意味と語感のギャップをゆるく楽しんでいくものです。


優秀な中二病の少年少女をIT業界にスカウトすべく始まったこの企画。今回もガンガン攻めていくわよ。


疾風スノーボール!


え、な、何?


雪で固めた球を投げる必殺技ですよ。えいっ! 続けてツインスノーボール!


……平たく言うと雪合戦ね。まぁ何気ない行動に一つ一つ技名つけるって中二病あるあるだわ。ちなみに元ネタは?


イナイレ(*1)です。シュートしたボールが炎をまとったりミサイルを追随したり、とてもとてもイカしたサッカーアニメですよ。


知らない……キャプ翼(*2)みたいなもの?


また懐かしい作品を……ええ、まぁ似た感じですけど。てかあれきちんと読んでませんがそんなトンデモ展開なんですか? イナイレよりは真面目な作品に見えたんですけど……。


ちっちっ、甘いわね。あれ凄いわよ。双子の兄が仰向けで滑ってジャンプ台になり、弟がドッキング後、飛んでシュートっていう、その名もスカイラブハリケーン


……野球漫画の魔球レベルですね。


一見スタンダードなタイガーショットもコンクリート壁を貫通するしね。多分オーバーヘッドキックも凄い超必殺技なんだろうと思っていたら、現実は意外と地味でがっかりしたわ。


あれ、実はすごいテクニカルな技なんですよ?


まぁ最初に漫画の技見ちゃうとね。何せ空中に飛び上がってから滞空して回転始めるし。


それはもうオーバーヘッドキックとは別物です……。なんか物理法則とかも超越しちゃってますし。


まぁちょっとやってみましょうよ。ほら、桜坂これつけて。


へ? ハーネス、安全帯……?


窓の清掃業者の借りてきたの。これつければ空中で一回転できるでしょ。ほら、行くわよ、ジャンプ、ジャンプ。


いやいやいや、ここ七階ですし、
無理です、死にます! ちょっと……ギャーー!


(*1) イナズマイレブン。元々はレベルファイブ社のゲームソフト。超次元サッカーだけに超展開が多い。
(*2) キャプテン翼。ジャンプの名作サッカー漫画。1981年連載開始。

(※)思春期の男の子女の子がぐっとくるようなカッコイイフレーズ、名前。ポーズをつけて叫んだりするとなお可。ただし大人になってから同じ単語に接するとなぜか赤面してしまう不思議。

今回のお題:
スライディングウィンドウ


意外と綺麗に一回転しないものね。なんか逆さ吊りになったり横倒しになったりで格好悪かったわ……。


ぜぇ、はぁ……死ぬかと思った。走馬燈が見えた。


どうすればうまくいくかしら、んー……じゃあ今度はハーネスなしで、二本の紐につかまる感じで。


ストップ! ストップです! ほら、お題出てますよ。必殺、スライディングウィンドウ! (ウィンド)とともにスライディングしてボールを奪う超必殺技です。


既にスペルの齟齬があるように思うけど……まぁいいわ、確かに中二病サッカーの技っぽいけどなんかビジュアルが地味じゃない? 風が吹くだけとか。


ただの風じゃないですよ、カマイタチです。突如生じた真空波によって敵選手は皆ズタズタに!


こぼれ球を拾った味方選手は?


ズタズタに!


だめじゃない。


なので単身突破用なんですよ。スライディングして転がったボールをまた立ち上がって取りに行く。


忙しいわね……。


そしてシュートの時も同じ技を発動! ボールごとゴールにつっこみキーパーを粉砕!


ファール。


え?


相手の身体を狙ったスライディングはファールでしょう。はい、フリーキック。


いや、これ中二病サッカーなんで攻撃にファールとかつけられても……。


口答えはイエローカード


………。


というわけで今度はこっちの攻撃ね。いくわよ、必殺ネオタイガーショット(*3)……ボールをぶちあてるだけならファールにはならない。目標……あんたの顔!


いや、いや傷害の意志が見えた時点で普通に反則ですから! 都合よくルールを使い分けないで下さい! しんぱーん!


(*3) キャプテン翼の必殺技の一つ。岩石を砕いてしまうらしい。

回答編


スライディングウィンドウは通信高速化手法の一つね。送受信を並列化させてなるべく多くのデータを送る仕組み。


送受信の並列化……ですか?


TCP(*4)などでデータをやりとりする時って、基本はトランシーバみたいに『送』と『受』の繰り返しなのよ。送信側がデータを投げて受信応答が返ってくるまで次のデータを送らない。


ああ、『こちらA、位置につきました、どうぞ』『B了解。どうぞ』みたいな感じですか。


そう、その『了解』ってやつがいわゆるACK(確認応答)ね。ただこれ、伝えたいことがたくさんある場合、いちいち待ってると大変でしょ。


確かに……途中からじりじりしてきそうです。


なので一定量の通信までは確認応答を待たずデータ送信できるようにする。これがスライディングウィンドウの基本コンセプト。


? 一度に送れるデータ量を増やしたってことですか?


ではないわね。というのもIPパケットのサイズって有限だから一回で何十メガものデータは送信できないの。代わりに細切れのデータを連続して送りつける。さっきのトランシーバのたとえだと『要件1、どうぞ』『要件2、どうぞ』『要件3、どうぞ』って感じで。


なんか空気を読まない人っぽいですが……。


まぁ人になぞらえるとうざいけど、これは機械の話だから。でまぁたとえば三件までは連続して送ってよいと決めておけば、要件3が終わった時点で受け手は要件1のACKを返す。すると送り手は要件4を送れるでしょ。


送信と受信をなるほど、並列させると。


この『三件まで』って決めがウィンドウ(窓)サイズ。で、それがACK到着でどんどんスライドしていくからスライディングウィンドウなのよ。動作をそのまま言葉で表した感じね。


ウィンド(風)じゃなくてウィンドウ(窓)でしたか……。さすがに『窓のスライディングタックル』じゃ中二技になりませんね。意味不明すぎて。


そこをなんとかイメージ膨らませていくのが真性の中二病患者でしょ? そうね……たとえば無数の窓を召還し、そのガラスを蹴り破って相手にダメージ与えるとか。


反則どころの騒ぎじゃありませんが!


じゃあ天から窓が落ちてきて相手の指を挟む、必殺スライディングウィンドウ! これは痛い!


………。


いや、いっそ窓を手裏剣のように投げる方がクールかしらね。ニンジャアタック! カミカゼーって感じでスライディングウィンドウ! うーん、まさに中二! ああどんどんイマジネーションがわいてくるわ。私、ひょっとして天才かも!


………(室見さんって実はセンス酷いかも……)


(*4) Transmission Control Protocol。データの伝送を制御するプロトコルの一つ。エラー訂正機能をもつため信頼性が高い。


【解説】

スライディングウィンドウ
TCPなどにおける通信高速化手法の一つ。送受信を並列化させてなるべく多くのデータをやりとりする仕組み。ZMODEMなどでも採用されている。

キャラクター紹介

桜坂工兵

(株)スルガシステムの新人SE。実はゲームオタ。ロマサガは人生。好きなレトロゲーはゲイモス。


室見立華

工兵のOJTトレーナー。見た目女子中学生、年齢不詳。主武装はドライバー。言動の端々に某巨大掲示板の影響あり。


システムエンジニアの過酷な毎日をコミカルに描く物語

なれる!SE―2週間でわかる?SE入門 (電撃文庫)

 平凡な社会人一年生、桜坂工兵は厳しい就職活動を経て、とあるシステム開発会社に就職した。そんな彼の教育係についた室見立華は、どう見ても十代にしか見えない少女。しかしそんな見た目に反し室見は確かな実力を持つワーカホリック娘で、多忙かつまったく優しくない彼女のもと、工兵は時に厳しく指導され、時に放置プレイされながら奮闘することになる。 。

 入社早々、実際の顧客相手の案件担当を振られるのを皮切りに、社内の運用部署との調整や大規模案件の提案、はてはベンダー数社を束ねるプロジェクトマネージャーまで、およそ新卒一年目にはハードルの高すぎる業務を無茶振りされるが!?

 システムエンジニアの過酷な実態をコミカルに描く物語、それが『なれる!SE』です。

部長代理・桜坂工兵、爆誕!
萌えるSE残酷物語、第11弾は管理職編!

なれる!SE11 絶対?管理職宣言(12月10日発売)

 スルガシステムが驚天動地の企業買収。子会社となるのは社員数8名のデジタル・ヴィレッジ。その部長に兼務で就任した藤崎はさらりと長期出張へ、そこで白羽の矢が立ったのは例によって工兵だった。

 任務は簡単な事務処理だけ……という話だったが、そう簡単にいくはずもなく、工兵は現場と会社の板挟みに。さらに優良システム開発会社という触れ込みだったDV社が実は大赤字ということが明らかになり!?

 技術アドバイザの役割を振られた立華とともに、工兵は事態の打開を図るが!?